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3月のブームの逸品

みを憶えてもらう

1億総グルメ

 筆者が飲食の業界に入った頃を思い返すと、TVでは料理人が腕を競う番組が流行し、雑誌でもグルメスポットを特集するタウン情報誌がブームを作っていました。当時、東京で飲食業界のマーケットは「すでに飽和状態」と言われながらも新規出店は減るどころか、加速するような勢いを感じました。「1億総グルメ」なんていう言葉も聞いたことがありました。また、ソムリエという職業が認知されるようになったのも、同じ頃だったのではないでしょうか。

きっかけは職業意識

 そのような中で筆者もフレンチの店を構え、「ウェイターとして店に立つ以上、商品知識を深めなければいけない」とワインの勉強を始めました。

 筆者は、それほど大量にお酒を飲むわけではないので、当初、ほとんどワインの知識を持っていませんでした。しかし、ワインの常識は意外にロジカルで、知れば知るほど興味も増していきました。

 初心者なら「肉には赤ワイン、魚には白ワイン」という知識でも十分でしょう。
でも、その理由が、肉の旨味成分には味わいの複雑な赤ワインの方が適していると分かると「牛肉には、この赤ワイン、鶏肉には、あの赤ワイン」とこだわるようになりました。


“ワイン通”な客は多くない?!

 意気揚々と店を構え、たくさんワインを呑んでもらおうと一流ワインを潤沢に準備したのですが、そんなワインを選んでくださるお客さまは期待したほど多くありませんでした。

 それもそのはず、我々は、毎日、仕事としてワインに接していますから、勉強せずとも、それなりに知識が増えていきます。しかし、お客さまは違います。お客さまがフランス料理を食べたり、ワインを飲んだりするのは、少なからず余暇という意味合い含まれているでしょう。お客さまは、イタリアンも食べれば、中華も、お寿司も、焼き肉も。今日は、たまたま、フランス料理を選んで、筆者の店に足を運んでくださった。ワインに触れる機会は、お客さまと我々で比較になりません。そんなお客さま方にワインの知識を持ってもらおうというのは酷なはなし。興味がなければワインを憶えるのは面倒くさいですから。

それでも啓蒙をあきらめない!

 1億総グルメの日本で、美味しいものに興味があるからこそ筆者の店に足を運んでくれたはず。面倒でない程度、簡単な知識であれば次にワインを飲む機会をもっと楽しめるはず。そう思い、ワインに少しでも興味を持っているお客さまには、その日に呑んだワインのブドウ品種を憶えてもらうよう伝えました。

ワインの味の決め手はブドウ品種

 以前から、ここでお伝えしているとおり、ワインの味は原料に使っているブドウ品種に因るところが大きいのです。だから、美味しいと思ったワインのブドウ品種を憶えてもらえれば、そのお客さまが、次回、ワインを選ぶ際、その方の好みに近いワインを飲めることになります。ワインは世界中で生産され、その銘柄数は膨大なものになっていますが、ブドウ品種は、それほど多くはありません。フランスでも、イタリアでも、カリフォルニアでも、同じ品種を使っているワインがたくさんあります。銘柄を憶えてもらったとしても、超有名銘柄でない限り、他のレストランや酒屋で再会できることは希でしょう。

同じ品種を呑むと分かること

 もし、お客さまが忠実に同じ品種を呑み続けてくださったら、作り手によって微妙な違いがあることに気づくでしょう。同じ品種は似た味、というのが筆者の主張ですが、当然、作り手によって味の個性や傾向があります。そのお客さまがご自身の好みの傾向に気付いたら、ワイン選びは、もっと簡単に、もっと楽しくなるでしょう。その為にも、まずは品種を憶えてもらうことから。すると、飲み比べの基準が明確になり、闇雲に呑んでいたときよりも味に執着してもらえ、“ワイン通”への一歩になると信じています。

 日本酒にも、原料とする酒米がたくさんあり、同じ作り手が醸造したとしても、その酒米によって味わいに違いが生まれます。その違いを日本酒選びの基準にするのも“日本酒通”だと思います。





ラフラックス 保木 香都子

 


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